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”10人いれば10冊売りたい本がある |
自分の売りたい本を売って欲しいです。” |
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大学生の頃、自宅から少し離れたところにあった書店の品揃えが良くて良く通っていたのですが、ある日を境に突然悪くなったので不思議に思っていたら、その売り場の担当者が辞められたと聞き、品揃えの良い書店は目利きの書店員によって日々作られているんだと、その時初めて意識しました。実際に書店で働き始めたのは28歳の時、大阪のマンガ専門店「わんだ~らんど」がスタートでした。その後、丸善の福岡ビル店へ入り、現在のお茶の水店へは2003年にリニューアルしてコミック売り場を新設する際に入りました。書店員歴は今年でちょうど10年になります。
子供の頃は『ドラえもん』などの藤子不二雄作品が大好きでしたが、中学の頃はちょうどジャンプの黄金期だったのに、あまりマンガは読んでいませんでした。高校時代に天文部の先輩から星野之宣さんの「2001夜物語」を薦められてファンになり、星野作品の載っていた雑誌でたまたま鶴田謙二さんの作品を読んで、今度は鶴田さんの大ファンになりました。それで大学時代に鶴田謙二作品に関するHPを作っていたんですけど、講談社から画集が出るときにそのHPが編集部の方の目にとまって、ファン代表としてコメントを載せていただいた事がありました。その他にも、大友克洋・士郎正宗・永野護などのSFマンガが好きになり、大学時代は少女マンガや4コママンガなどにも手を伸ばして、どんどん好きな漫画家さんが増えていきました。
最近の一番大きなフェアは一昨年秋に出た高室弓生さんの『ニタイとキナナ』です。この作品は縄文時代を舞台にした傑作なのですが、10年前の連載終了後に掲載誌が休刊になり単行本化されず、忘れ去られようとしたところを青林工藝舎さんから刊行が決まり、大喜びでフェアを計画しました。縄文時代関係の書籍を硬軟とりまぜて選書したり、版元さんからは直筆サイン色紙や複製原画、先生所蔵の縄文式土器をお借りし、売り場作りをしました。その結果、2ヶ月間で100冊以上を売り上げることが出来ました。さらにこのヒットで、20年前に出て絶版になっていた『縄文物語』の復刻も決まり、私がその解説文を書かせて頂き、当店でサイン会も行うことが出来ました。フェアで多くの人に作品を知ってもらい、サイン会で作者とファンとの交流の場を作る事が出来たのは書店員をやっていて良かったなぁと感じる瞬間でした。
書店は同じ価格で販売し、取次の配本に頼ると売れ筋を前面にした金太郎飴的な売り場になりがちです。しかし、どの店にもあるその売れ筋を自分の売り場から買ってもらうには、売れ筋以外の部分で、個性的かつ旬を押さえた品揃えが出来るかにかかっています。その意味で重要なのは、棚前の平積みです。ここには売れ筋の長い巻数ものは並べずに、長くても4巻くらいまでのお薦め作品をPOPやためし読み本と共に展開し、お客様と作品との出会いの場を演出するようにしています。そうして、お客様の「いつも行く書店」にしていただければ、新刊やアニメ化ドラマ化作品など「売らなくてはいけない」作品も自然に売れていきます。お薦めする作品に関しても、自分の目利きや趣味を優先しますが、他のスタッフのお薦め、新聞雑誌のレビュー、他店の展開の様子、売り場でのお客様同士の会話なども参考にして、あまり偏り過ぎないように気を付けています。
書店は薄利多売で基本的に人件費等にお金をかけられないのが現状です。でも、コミックや文庫、児童書等は特に、担当者の頑張りや熱意次第で売り上げが大きく変わります。一流の書店員として大きくなる前に辞めていく人も決して少なくありませんが、書店業界がこれからもっと待遇の面で変わっていき、頑張る人がちゃんと報われる仕組みがあれば、この業界ももっともっと良い方向に進化していけるのではないかと思っています。
日々の仕事に流されないで、自分が売りたい本を見つけて「この本は自分が売らなければ!」という気持ちでやって欲しいですね。あなたがお薦めしなければ、その本は、その作者の想いは読者に届かなくなってしまう。10人いれば10冊売りたい本があるはずです。作者と読者をつなぐのが我々の仕事ですから、自分の売りたい本を売って欲しいですね。
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