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”まずは基本が出来てから、 変化球はそれからです” |
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大学生の時、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を何気なく読み、衝撃を受けました。坂本竜馬が暗殺されることは小学生でも知っていて、結末は分かっているはずなのにはらはらドキドキした。そして生まれて初めて本で泣いたんです。本当にびっくりしましたね。本って泣けるんだって。そして次に椎名誠さんの『哀愁の町に霧が降るのだ』を読んでみたら、これが我慢できず吹き出してしまうくらい面白かった。今度は笑えることにびっくりしました。もしかして本って漫画より面白いんじゃないか。そう気付いてからはどっぷり書店に通いつめていました。
不思議と最初から書店で働く考えはありませんでした。しかし、初めて就職した会社を辞めた際、「本を扱う仕事であれば、少しばかり嫌なことがあっても続けられる」と思いこの世界に入りました。今年で書店員歴は18年目になります。
入社当初、店長から「丸善は少し堅いイメージがあるので崩してほしい」といわれ、ずっと好きだった越谷オサムさんの『階段途中のビッグ・ノイズ』をワゴンに200冊くらいドカ積みし、『最後まで読んでつまらなければ返品承ります』と書いたパネルを掲げて展開しました。かなり思い切ったフェアですが、当時の店長もスタッフも異分子として入社した僕のすることを楽しんで協力してくれました。著者さんからは気が気じゃなかったと後から言われましたが(笑)。結果、1冊だけ返品がありましたが、累計で600冊以上を販売することができました。
また現在、津田沼店では出版社に許可をとり、小説の『ゲラ』の冒頭部を冊子にし、「ちょいゲラ」(左ページ※1)として書籍の発売前に店頭で配布しています。
こういったことはお店の環境によって出来る出来ないはあると思います。ですが、もともと本は買わなくても生きていけるもの。だとすれば、どこか遊び心をもった企画でお客さんの興味を引きたいですね。
普段滅多に本を読まない人でも気軽に入ることができる、敷居の低い本屋というのを意識しています。 あまり捻った陳列をしすぎてお客さんが本を探せないと意味がありません。あるべきところにあるべきものがあり、誰でも目的の本にたどり着けるゾーニング、その中で「こんな本あったんだ」というキラッと光る部分があるのが理想ですね。
また、ベストセラーや新刊ばかりに頼らず、この店ならではの新しい発見ができるお店にしたいです。
昔ある人に言われた「本は手にとった時が新刊」という言葉がずっと心に残っているのですが、はじめて読む人にとっては発行時期なんて関係ないんですよね。もちろん売上のバランスも考えて話題本は販売しないといけません。でも、自分のお店の一番オススメがどこの書店にもある話題の新刊、というのはなんだかかっこ悪いじゃないですか。確かに、既刊本は「知ってるけど買わない」というお客さんが多く、その理由をひっくり返すのは難しいことだと思います。でもそれをPOPやフェアでひっくり返すのが私たち書店員の仕事なんですよね。
思わず本を手にとりたくなる文章のPOP。沢田さん曰くPOPを書くコツは「照れを捨てること」。 最初は恥ずかしくて書けなかった沢田さん。今では自分のPOPには必ずハンコを押してるんだとか! |
今日はたまたま仕事が早く終わったから丸善によって帰ろうとか、買うつもりが無くても気軽にふらっとよってもらえる、そして『ああ良い店だな』と思ってもらえる店には時間を掛けてでもしていきたいと思っています。
じゃあ具体的に何をしたら良いのか。挙げ出せばキリがないですが、接客、掃除、品揃え、陳列…一つ一つ当たり前のことを当たり前にやることが大事だと思います。ストレートがキャッチャーミットにいかないのに一生懸命カーブの練習をしても意味ないですよね。まずは相手にボールが届くようにする、基本が出来てから。変化球はそれからでいいんです。
右肩下がりの業界、もしかすると楽しい事より苦しい事の方が多い時もあるかもしれません。でも、みんな一緒なんですよね。僕はそう考えて辛いと感じた時、悩んでるのは自分だけじゃない、みんな頑張ってるんだから自分もがんばろうと気持ちを入れ替えています。
それに、最近ではSNSという飛び道具が充実し、10年前だと考えられないような繋がりを作ることが出来ます。その中で試行錯誤しながら頑張っている人を見ていると負けたくないという気持ちも湧いてきます。もう、仕事辞めたいなんてかっこ悪くて言えないですよね(笑)。良きライバルとして助けられていると思いますね。
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