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啓林堂書店/西田大栄さん

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【第22回】啓林堂書店 営業本部部長 西田大栄さん

 

 

便利で楽な時代だからこそお客様に近い、

      手触りのある仕事をしなければならない。

 

 

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啓林堂書店 営業本部 部長  

西田 大栄(にしだ だいえい) 

 
   

奈良県出身。書店員歴20年。
高校二年から書店でアルバイトを始める。大学を中退しブックオフの社員に。店長・新店舗立ち上げを務め、30歳で退職し啓林堂書店へ入社。2012年9月より業界紙 新文化 『レジから檄(げき)』の連載を担当。プライベートでも本屋巡りが趣味な根っからの本好き。

 
   
    
   
   
(※記事内容はすべて2014年1月現在の情報です。)  
 

1974年、奈良県大和郡山市に創業した啓林堂書店は、郡山店をはじめ奈良店・西大寺店・奈良三条店・新大宮店・学園前店の計6店舗を奈良県内で経営。書籍を通じて地域文化の振興に貢献する企業を目指し、奈良県に深く根づいている。今回は、リアル書店のあり方を常に考え、奈良県にもっと本が好きな人を増やすべく奮闘する、西田さんにお話を伺った。

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これまでの書店人生で印象に残っていること、大切にしていることを教えてください。

 高校二年生の時、幼いころから通っていた書店からお誘いを受け、アルバイトを始めました。しかし、ある日突然、「倒産するからその前に辞めなさい」と告げられました。アルバイトに退店作業をさせたくなかったのでしょう。毎日のように通っていた書店が無くなったことはショックでした。その後ブックオフに入社し、不採算店の閉鎖にかかわり、スタッフを解雇してお店を閉めるつらさを知りました。だからこそ啓林堂書店の6店舗を大切に守りたいと思っています。一度出したお店は決して閉めてはいけない。その地域から書店が無くなることも、そこで働く書店員を失うことも絶対にあってはならないと思っています。

 

啓林堂書店で意識的に取り組んでいることを教えてください。

 一冊一冊の本を大事に売ること、無駄な仕入れをやめ、厳選した商品を返品せず確実に販売することが書店が生き残るカギの一つだと考えています。
 私の前職はブックオフの店長でした。中古書店では売れ残った本を返品することも、必要な商品を選んで仕入れることもできません。フェアをやる際は在庫の中から選書して棚を作り、売れ残った商品は値下げして売り切るということをしています。
 新刊書店はどうでしょうか。希望の商品を仕入れ、売れ残った本はすべて返品。そして売上不振の理由は「ワンピースの配本が少なかったから」。そうではありませんよね。「配本が少ないから売り上げが悪い」と言いつつ、「売れなければ返品したら良い」という考えでいれば、いつまでも新刊など送ってもらえるはずがありません。我々新刊書店は、作り手の魂がこもった本を、もっと責任を持って販売しなければいけません。そうしなければアマゾンどころか中古書店にも負けてしまいます。

 

 

具体的にどういった取り組みをされているますか?

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  一番新しい店舗である学園前店、ここの売り場には検索機を置いていません。それは、学園前店の三年前に出店した奈良ビブレ店(テナントビル閉鎖の為閉店)での経験を受けてのことです。売り場面積500坪であった奈良ビブレ店は県下最大級というプレッシャーもあり、とても形にこだわって作った店舗でした。入口にはずらっと検索機を並べ、棚に番号を付けたロケーション管理や自動発注システムを導入しました。

 結果、スタッフは毎日大量に入荷する本を、決められた番号の棚にもっていき、確認するのは商品ではなくバーコード、お客さまをお迎えするのは検索機になってしまった。

 これが本屋なのか、アマゾンと一緒ではないのかと思いました。機械的で手触りが無かった。どれだけ機械化を行ってもアマゾンにスピードで勝てるわけがありません。我々が絶対に負けてはいけないのは、接客力と提案力だったと気づかされました。
 そして 学園前店は入口に検索機を置かない ロケーション管理、機械任せの自動発注も行わない本屋にしよう。もう一度原点に立ち返り「顔が見える本屋」を作ろうと決めたのです。

 

 例えば、学園前店ではお客様が本の中身を確認しやすいように、スリップの差し替え作業(※1説明)を行っています。その作業の際「この本はカラーなんだとか少しでも中身を確認し、自分の店にどんな本があるのかしっかりと認識する。そうして問い合わせを受けた際は全力でお手伝いし、お客様のお探しの本がなければ在庫から類似書を探してお勧めする。こんな便利で楽な時代だからこそ、お客様に近い、手触りのある仕事をしなければいけないと思っています。

 

スタッフ教育についてはどうお考えですか?

 闇雲に叱るのではなく、どうしてこうするのかしっかりと理由を伝えることが大切だと思います。
 学園前店の出店の際、自分たちがどんな本屋を作りたいのか、店長やスタッフと何度も何度も話し合いました。そして現在、担当ジャンルに限らず全ての商品を認識できるようスタッフの配置換えを試みるなど、店長が自発的に行動してくれています。こうやって伝えてくれる店長がいて、それを受けるスタッフがいる。やはりおのずと返品率も下がってきました。全店舗に理解して行動してもらうことが今の私の課題ですね。

 

今後の展望を教えてください。

 啓林堂書店がもっと深く地域に根ざすことで、奈良の皆様から必要とされ続けたい。そうすればアマゾンも電子書籍もナショナルチェーンも怖くありません。
 普段なかなか書店に来ない人にいかに楽しんでもらえるか。また来たいと感じて頂けるか。来店価値の向上を目指し、啓林堂書店はこの夏、子ども読書マラソンを初めて開催し、多くの子供たちが参加してくれました。本店である郡山店は創業当時、語学教室や音楽スタジオを併設し、本だけでなく楽器も販売し、多くの若者が集う文化の発信地だといわれていたそうです。書店が本を買うだけの場所ではなく、地域の情報発信の場所になればと思います。

 

全国の書店員さんに一言お願いします!

 業界の事情を嘆くのではなく、もっとお客様と会話してどんな本を必要とされているか、聞いてみたら良いと思います。6次の隔たり(知り合いを6人たどれば世界と繋がる)はもう古い。SNSの時代にフェイスブックでは4.7人で繋がるそうです。よく来て下さるお客様が実はあの作家の知り合いかも知れない。そんな人のつながりを大切にすることで深く地域に根ざせば、書店は未来永劫きっと必要とされ続けるでしょう。

 

 「顔の見える本屋」へ ~学園前店の取り組み~
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①②棚番号がない什器。検索機がないためより細かくジャンル分けがされている。

③④(※1説明)「現物商売をしているのでやはり中身を見て買ってもらいたい。
スリップが後ろにあればスムーズにページをめくって頂けますよね。」西田

 

 

西田大栄さんのいちおし☆BOOKS

 
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 「センス・オブ・ワンダー」

 レイチェル・カーソン/著

 

 
    

【作品解説】

化学薬品による環境汚染にいち早く警鐘を鳴らした書として、いまも多くの人々に読み継がれている名著『沈黙の春』。その著者レイチェル・カーソンの遺作として、彼女の友人たちによって出版された。本書はレイチェルが過ごしたメーン州の海岸などの情景が詩情豊かな筆致で描かれている。

【オススメの理由】

50項程度の短い本文から生命の輝きに満ちた地球の美しさがあふれる素晴らしい作品です。3月11日の大震災から3年。自然への畏怖の念を再認識させてくれるこの本を今こそ多くの方に読んで頂きたいと思います。

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  こちらの記事はDAIWA LETTER40号に掲載されています
   
 

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