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”本屋というのは私たちが感じている以上に、 |
何をやっても許される場所だと思います” |
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学生の頃、毎週日曜日になると駅に新聞を買いに行っていました。日経・朝日・読売・毎日…各社の書評を全て読むんです。それくらい本が好きでしたね。
就職先を考えた時、ふと紀伊國屋書店には自分の好きなものしかないということに気付きました。その頃僕は演劇をやっていて、紀伊國屋ホールは演劇をする学生にとってあこがれの場所でした。本屋で劇場もあって、ここで働いたらさぞ楽しいだろうなって。甘い考えですけどね(笑)。以来20年間、紀伊國屋書店で働き続けています。
安易に本のことを悪く言わないということです。
ここ10年くらいの間に、出版社と書店が一緒に本を販売していくような雰囲気が高まり、作家さんと会う機会が飛躍的に増えました。その中で感じたことは、作家さんも普通の人間だということ。作家、というと遠い存在に感じるかもしれません。しかし、やっぱり作品を褒められると嬉しいし、貶されれば悲しいんですよね。特に売り手である書店員の言葉は彼らを深く傷つけると思います。そして何より、たとえ僕が好きじゃなくても、その本を楽しみに待っている人がどこかにいるはずです。
売り手として、プロとして安易にネガティブな事は言わない。それが、その本を届けようとしている人、買ってくれる人に対する礼儀なんじゃないかなと思っています。
うちの店には「これをやってはダメ」という事がありません。スタッフが何か企画やフェアをやりたいと言えば基本的に許可をしています。その代わり、言ったからには必ず自分で実行してもらう。「言ったもん負け」とスタッフの中では言われています(笑)。ですがみんな凄く面白い企画を考えてくれますね。
例えばこれまで、書籍の発売に合わせ、様々な関連商材の販売を行いました。雑貨、食品、キャラクターグッズなど、スタッフが新しい仕入先を見つけ、交渉も全て自分で行っています。
また、関西にある古書店と、店舗の棚を貸し出す形で一緒にフェアやイベントを行ったりもしています。古書を扱うには警察に申請する必要があり、少し手間は掛ります。しかし、絶版本も扱えますし、新刊書店とは違う視点での選書はお客様にも楽しんで頂けていると思います。
何かを思いついた時、出来ない理由を探しても仕方ありません。実現する為に何をどうすれば良いのか、一つ一つクリアしてきた結果が今のお店の形になっています。
先日、大阪で働く書店員と取次の有志が集まり1冊の本を作りました。『西加奈子と地元の本屋』です。この本は企画、執筆、編集まで、すべてに書店員が関わって作成した本です。
きっかけはスタンダードブックストア代表・中川和彦さんの「若い世代の書店員が遊べるプラットホームを作ろう」との声掛けです。現在、書店業界で何か発言をしていたり、著者や編集者と関係を作っているのは、40代以上の書店員が多いように感じます。今私たちは、20代30代の若い書店員がもっと自由に働ける雰囲気や、活躍できる環境を作っていきたいと考えています。この本をベースに若い書店員達が自由に活動の幅を広げていってほしい。
そしてもうひとつ、今回の活動が、書店が地域でまとまっていくきっかけになればと考えています。今はまだ「出版=東京」で、東京で作られた本を全国の書店が売っている。ですが、食べ物や言葉にもあるように、本にも『地域性』があって良いと思います。大阪の書店が協力して大阪らしい本を作り販売していきたい。
商売なので最後には自分の会社が残るんだという気持ちもありますし、競争もしないといけません。ですが、足の引っ張り合いをするのではなく、お互い良きライバルとしてみんなで上を目指して行きたい。そして、結果的に業界全体のレベルが底上げされて行けば良いなと思っています。
何か新しい事を始めたい人、分からない事のある人は一番最初に本屋にいらっしゃる。それは、あらゆる事が本に書いてあるからです。本というのは色んな所に繋がっていく扉みたいなものなんですよね。つまり我々は何十万という どこでもドア を扱っている。
その僕らが本屋は本しか売ってはいけない、という先入観で働いていてはもったいない。
本屋というのは私たちが感じている以上に、何をやっても許される場所だと思います。何を売ったってどこと繋がって行ったって良いじゃないですか。だってそれはどこかの本に書いてあることですから。
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ソルトコーディネーター青山志穂(著)『塩図鑑』と共に販売された100種類の塩。
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『世界で一番美しいイカとタコの図鑑』と一緒に展示された超リアルなイカ模型。出版社に交渉して作ってもらったとのこと。
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