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”毛細血管が僕たち地域の書店ならば |
たまには血の巡りを逆流させてもいいかな” |
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この話をすると、単行本2冊くらいになりますよ?(笑)僕は岩手県と秋田県の県境、人口が数千人の町に生まれ、実家が本屋を営んでいました。仙台の大学を中退後は実家と付き合いのある取次業者の縁で、当時さわや書店本店の真向かいにあった第一書店で5年半働き、その後実家を継ぎました。僕の場合は「本屋になる」というよりは「地域の人間になる」ということが非常に大事だった。20坪の店で本だけでなく化粧品の販売、保険の代理店、もちろん農家もやってました。まぁ、田舎の商売ですよね。それが当たり前の環境で育ってきたし、全く嫌じゃなかった。
しかし現実は厳しく、大型SCの進出に伴い商店街は衰退。僕も店を閉め、さわや書店に入りました。今思えば「本屋の末期」を味わいましたね。結局僕の町には本屋が一軒も無くなってしまったんです。確かに車を走らせれば、ネットを使えば本は買える。でも、なぜ「本屋」にこだわるのかというと、その地域のコミュニティーの一つだったんです。本屋は地域と共に生きて、地域の中の一つのもの。難しいけど、「書店」とはニュアンスが違う。それは今でも根強く思っています。
フェザン店は、店の正面に郷土の棚を置いています。それを徹底的にやろうと。いつも取次さんには「変えてください・・・」って頼まれるんですけどね。僕らが扱う必要の無い話題は大手に任せます。
その観点から『震える牛』(※)に力を入れています。この本が出ることはずっと前から分かっていて「地方の現状」というフェアを組み、売るための準備をしてきました。多分ピンとこないといますが、僕の生まれた町は全人口の55%を高齢者が占め、更にその多くが独居老人世帯という超高齢化社会。何かあっても動けるがどこにもいない、いわゆる「限界集落」です。でも何も知らずにそう呼んで欲しくないんです。
「大型書店が動脈、静脈を担っているとしたら、毛細血管が僕たち地域の書店なんだ」と伊藤(さわや書店元店長)に教わりました。その毛細血管が詰まり、血液の循環が上手くいかなくなってきている今、たまには血の巡りを逆流させてもいいかなって。だから僕は『震える牛』にこだわります。末端の僕たちが声を上げ、そして中央の人たちが声を上げ始めたら業界は変えられると思います。
この震災を通じて、「地域の繋がり」を感じたことは数えきれないほどありました。
ここ盛岡市は沿岸部から離れているため、幸い津波の被害は免れました。しかし沿岸部に位置する釜石市では、うちの支店以外全ての本屋が流されてしまったんです。すぐ釜石店に足を運んでみると、本を求める被災者が集中したため、既に本が無くなっていました。物流が止まり書籍の入荷も不可能な状況の中、自然な流れでフェザン店の商品を持って行くことになりました。〈釜石では何十年もお世話になっている。うちに本が無くてもお客さんは分かってくれる。〉と。
それから「さわや急便」と名付けた車で毎日釜石に書籍を運びました。そこには本を求める多くの人がいる。本って生活の一部なんですね。僕は本を売りたくても売れなくて店を閉めた。だから、こうして多くの人に本を手渡せる喜びは人一倍強い。それを釜石では痛切に感じました。
フェザン店のお客様といえば、週刊誌も発売当日に一冊残らず釜石に持って行ったものですから、当然「あれ?ジャンプないの?」って聞くんですよ。「ごめんなさい、釜石に持って行きまして。」とこちらが答える。これが私たちとお客様の関係だと思います。
震災から一年以上が経過し、テレビもラジオも新聞も一時的にしか取り上げなくなっていますよね。しかし沿岸部の人たちは今でも「絶賛被災中」なんです。「今こそ被災地に想いを」というフェアを一ヶ月前からやっていますが、これを単発で終わらせる気はありません。風化を防ぐという意味で「本」の果たす役割は大きい。店頭、ネット、ラジオ、地域の情報誌、使えるツールは全て使って一冊の本を売ることに全力を注ぎます。売行きはとても良いです。
これも「逆流」ですね。
おそらくみなさんが想像されている「さわや書店」は、5、6年前のさわや書店です。これまでは伊藤というカリスマがいましたが、もういない。今はスタッフみんなで店を作って行かなければいけないし、「誰かがやっている」という意識はありません。僕たちの「さわや書店」は発展途上。まだまだ伸びます!
しかし変わらないものもあります。何十年も前からさわや書店が使い続けているブックカバーに書かれている「わたしは、わたしの住む街を愛したい」という気持ち。これが全てです。(下図参照)
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一冊の本に全力を注ぐ!
田口さんの得意ジャンルである時代 |
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文庫の平台。必ずしも新刊を並べるわけでなく、季節に合わせて売れる本を置く。 |
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『震える牛』の隣には関連性のある『限界集落株式会社』が置かれる。『震える牛』の登場人物で巨大権力と闘う警察官、女性記者が発する一言一言に、地方出身者なら共感するところも多いはず。 |
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さわや書店オリジナルブックカバー。昭和32年頃の盛岡市のメインストリートであった大通り商店街が描かれている。 |
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Q.なぜオリジナルPOPにこだわるのか? A.POPをつけた本に責任を持ちたい、これが今うちの売りたい本なんだ、という強い意志表明です。 |
Q.ズバリPOPとは? A.レシピです。本屋も八百屋も同じ。本屋にとっての産地は出版社。中身は味。味がわからないのに野菜を買いたいですか?そういうことです。
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